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東京高等裁判所 昭和35年(く)58号 決定

本件抗告の理由は抗告人名義の昭和三十五年五月十一日附抗告状に記載のとおりであるから、こゝにこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。

(一) 建築主事が与える建築の確認は、建築法令に基いてその敷地に建築を許すことが建築行政上支障がないと認めた場合になす行政処分であつて、建築確認の申請者がその敷地の実体上の使用権を有することは確認の要件ではない。換言すれば建築の確認はその敷地の私法上の権利関係に何等直接の関係のない行政処分であつて、建築の確認があつたからといつて確認を得た申請者がその敷地につき何等実体上の使用権を取得するものでもなく、また敷地の実体上の権利者の権利は建築の確認によつて毫末も影響されるところはないのである(昭和二四年(ネ)第四七五号昭和二五年一月三〇日言渡東京高等裁判所第一民事部判決参照)。故に被疑者が本件確認をするに当り東京都建築局指導部係員宮崎啓蔵が現地に調査に赴いた際、確認の申請者有賀清文の説明を求めただけで、抗告人を立会わせその説明を求めなかつたからといつて、被疑者が右確認に当り職権を乱用したということはできないし所論憲法の規定に違反するものでもない。

(二) 建築基準法第九条第一項によれば特定行政庁は、同法又はこれに基く命令若しくは条例の規定に違反した建築物については、その建築主等に対しその違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができるのであるが、必ずしも常に右の措置を命ずることを要するものではなく、違反の程度の如何その他の状況によつてはこれを命じないこともできるものである。しかも、右措置を命ずることのできる者は特定行政庁であつて建築主事たる被疑者の権限ではないから、同条項に基く措置の命ぜられていない本件で被疑者が確認の要件を充すものと認めて確認をしたからといつて職権を乱用したものということはできないし、所論憲法の規定に違反するものでもない。

(三) 建築基準法第六条によれば、建築主は当該工事に着手する前に確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならないことは所論のとおりであるが、抗告人は有賀清文が建築した建築物は確認を受けていない違反建築物であるのに特定行政庁はこれに対し建築基準法に基く処分をしないのは不当であるとして東京都建築審査会に対し異議の申立をしたところ、同審査会は右建築物は建築確認を受けずに建築された違反建築物ではあるが、その違反の現状から見て今直ちに除却命令、使用禁止等の具体的措置を命ずる段階ではないとして右異議申立を棄却する旨の裁定をしたことが明らかであり、記録によれば東京都建築局指導部係員宮崎啓蔵が現地調査の結果、建築確認申請者有賀清文の主張する土地が現存しその土地の上に建築基準法に定める七割以内に相当する建坪の家屋が建築されていて法律に定める要件を具備していたので確認したというのであるから、工事着手前に確認を受けないで建築した建物に対し確認したからといつて被疑者が職権を乱用した確認したということはできない。

(四) 建築基準法第九十四条第六項の規定は、同条第一項の異議の申立について建築審査会がこれを受理し、特定行政庁又は建築主事に対し、そのした処分を変更し、若しくは取り消し又はその行わなかつた処分を行うよう命ずる裁定をし、その裁定を特定行政庁又は建築主事に通知した場合に、これが通知を受けた特定行政庁又は建築主事は、その行つた処分を変更し、若しくは取り消し又は行わなかつた処分を行う必要があると認めるときは、その通知を受けた日から七日以内に、その行つた処分を変更し、若しくは取り消し又はその行わなかつた処分をし、その旨を異議の申立をした者に通知しなければならないというのであるが、抗告人がした異議の申立は有賀清文の前記家屋の建築は建築主事の確認を受けないものであるのに、特定行政庁がこれに対しなんら建築基準法に基く処分をしないから異議を申し立てるというにあるところ、右異議申立は建築審査会によつて棄却され何ら特定行政庁又は建築主事に、処分の変更取消を命じ又は行わない処分を行うよう命ずる裁定はなされなかつたものであり、被疑者のした本件確認は前記条項に基く裁定とは関係なく行われたものであるから、右確認が同条項の期間内になされないからといつて違法であるとはいえない。

要するに被疑者が本件確認について、職権を乱用し、抗告人の行うべき権利を妨害した事実はこれを認めるに足りる証拠がないから、東京地方検察庁検察官波山正が被疑者に対する公務員職権濫用被疑事件につき、公訴を提起しない処分をしたのは正当であり、従つて原審が被疑者を審判に付する請求を棄却したのは正当であつて、本件抗告は理由がないから棄却すべきものとし、刑事訴訟法第四百二十六条第一項に従い主文のとおり決定する。

(岩田 渡辺辰 司波)

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